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二十二章 「彼の覚悟」

Author: 桃口 優
last update Huling Na-update: 2025-09-20 02:03:33

「穂乃果、少しでもいいから、僕の話を聞いてほしい」

 言葉がどんどん激しくなっている私に対して、彼は落ち着いた声で話してくる。

「僕が何も理由もなく、穂乃果に対してひどい態度を今までとったことが一度でもあったかな? ゆっくりでもいいから思い出せたら思い出してみて」

 その言葉は、諭す感じも考えを押しつけてくる感じもなかった。

 だから、私は少し考えてみることにした。

「なかった」

 彼はいつも優しくてまじめだ。

「そう言ってくれてありがとう。僕は今も、そしてこれからもずっと穂乃果のことを思っているよ」

「本当に??」

 私は目を真っ赤に腫らしながら、彼を見つめた。

「うん。僕を信じてほしい。僕にとって穂乃果のことを守れないことが一番辛いから」

「蒼がすぐに話してくれなかった理由は何だったの?」

「それは穂乃果を守り、救いだすためだよ」

「私を救うために、真実を隠していたの?」

 私はその二つがどうつながるかわからなかった。

「わかりにくいのも無理はないよ。僕の伝え方もきっと適切ではなかった。穂乃果の今の状況を変えるには、穂乃果自身で今の世の中の姿を知り、それを超える必要があった。当たり前だけど、世の中の仕組みを超えることは簡単じゃない。でも、僕には穂乃果を陰で支えて信じていることしかできなかった。本当はすぐに穂乃果に全てを伝えたかった。すぐに全て伝えなかったことは本当に申し訳ないと思っている。でも、一方でそれを伝えるだけでは何も変わらないとも僕は思った。だから、幸せの評価制度を作った会社自体に、僕がヘッドハンティングされるようにしむけた。彼らがほしがる情報を手にいれ、自分でリークした。確かに社会に貢献する仕事がしたいと働き始めた頃は思っていた。新入社員の挨拶の時、言った言葉は嘘じゃない。けれど、穂乃果に出会ってその気持ちより強い気持ちが僕の中で生まれた。病院から穂乃果を救い出した時、世の中に強く不信感を感じた。こんなひどくておかしなことが普通に行われているのは、明らかに間違っていると思った」

 彼はさらに話を続けた。

「そんな理由から穂乃果の障害については、知っていたけどすぐに話せなかった。それは本当にごめん。ただずっと気にはかけていたよ。そして、穂乃果の身にあることが起きることを僕は待っていた」

「私のことを気遣ってくれてありがとう。そのあることとは何?」

 彼
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